オーバーホールに最適な時期とは?
時折、以下のようなご質問や問合せを受けることがあります。
- 6万キロを越えましたが、オーバーホールした方が良いでしょうか?
- 何万キロを越えたら、オーバーホールは必要ですか?
- パーツはどこまで交換が必要なのでしょうか?
- ピストンは交換しますか?
- 腰上オーバーホールでも大丈夫でしょうか?
- オーバーホールしたら調子は良くなりますか?
- パワーは上がりますか?
- なぜオーバーホールが必要なんでしょうか?
良く頂くご質問ごとに、お答えしましょう。
オーバーホールする理由について
オーバーホールする目的は、「大好きなオートバイに、この先も調子良く、楽しく乗るため」となるのでしょうか。
誰だって、調子の悪いオートバイに乗りたくはありません。それが自分のオートバイで、この先も乗り続けるのであれば、なおさらです。
では、オーバーホールする理由は・・・?
ほとんどの方は、XJR1300に仕事で乗っている訳ではないはずです。あくまでも趣味の範囲でしょう。つまり、そこには「楽しさ」が必要になります。
しかしエンジンは、消耗品や金属のかたまりです。機械です。パワーを放出する代わりに、各部は消耗します。カーボンも蓄積します。樹脂パーツは硬化します。
最悪の場合、トラブルで走行不能なることもあります。距離や時間と共に、調子が悪くなることもあるでしょう。出先でトラブルが発生すれば、帰れない場合もあるかもしれません。このような調子の悪いオートバイで出かけて、楽しい訳がありません。
オーバーホールする理由を一言で言うならば、機械だからです。機械ですから、何もメンテナンスしないで放りっぱなしでは、調子良く走り続けられる訳がありません。
形あるものは、いつかは壊れます。機械ですから、いつかはダメになります。でも、形あるうちは、せめてメンテナンスをして調子良く使いたいもの!
XJR1300が発売になって、既に20年が経ちます。どのような乗り方をしても、どのような保管状況だとしても、それなりに劣化しています。XJR1300に愛着があり、この先も乗り続けようとお考えであれば、エンジンのオーバーホールは、避けて通ることは出来ないでしょう。
走行距離について
今までに、数千キロの走行距離で開けたエンジンもあれば、9万キロ越えもありましたが、オーバーホール依頼の多くは5~6万キロ前後といったところでしょうか。
エンジンの傷み具合、消耗具合、ヘタり具合は、走行距離だけの問題ではありません。エンジンオイルの品質や交換頻度、乗り方、購入からの年数、エンジンの回し方、不動時間、メンテナンス頻度など、様々な条件によって左右されます。
走行距離が少なくても、異物混入でピストンやシリンダーにキズが付いていることがあります。高回転を良く使う方は、バルブの当たり面に、圧縮抜けの原因となる打痕が多く見られることもあります。
不動時間が長期に渡ったりオイル管理が悪い場合は、カムシャフト回りにキズが多く見られたり、メタルの状態が悪い場合もあります。低速走行の多い方は、走行距離の割りにカーボンの蓄積が多い場合もあります。
ですから、一概に走行距離が少ないからエンジンの状態は良い、という訳ではないのです。
発売からある程度の時間が経過していますので、いろいろなケースがあります。走行距離が1万キロでも、酷い状態のエンジンもありました。反面、6万キロを越えていても、非常に内部のキレイなエンジンもありました。
中古車を購入した場合は、前オーナーの使い方や手入れの頻度も分かりません。もし不具合を感じたら、大きなトラブルに発展する前に、専門店に見てもらうことをお勧めします。
特に15年以上経過している車両は、この先も長く調子良く走る為には、オーバーホールすることを考えてみる必要があると思います。
交換パーツについて
ここでは、クランクケースまで割るフルオーバーホールを前提にお話します。
クランクケースまで分解しなければ交換できない消耗パーツの代表は、カムチェーンとメタル類でしょう。
カムチェーンは、クランクシャフトとカムシャフトを繋ぐチェーンですが、チェーンですから伸びます。テンショナーがありますので多少伸びたからといって外れる事はありませんが、バルブタイミングが伸びと共にズレてきます。
カムチャーンが伸びると、バルブタイミングは遅れる方向にズレていき、走行距離の進んだエンジンでは、設定値より7~8度遅れている、といった事も珍しくはありません。
まだ新品パーツが出ますので、クランクケースまで分解した場合は、カムチェーンは必ず新品に交換します。
メタル類には、クランクメタルとコンロッドメタルがあり、高回転で回るクランクシャフトやコンロッドを支えている、非常に重要なパーツです。
走行距離が進めば、焼き付いていなくても磨耗・消耗したりキズがあったりするものです。新品を組めば慣らし運転が必要になりますが、ケースまで分解したら新品を組みたい箇所になります。
他にもスタッドボルト類は、全て新品に交換します。そもそも15年、20年経過したエンジンでは、スタッドボルトは簡単には抜けません。抜けない、緩まない、折れる・・・内燃機屋さんにお世話になる事も度々あります。
シリンダーヘッドをキレイにし、バルブやピストンのカーボンを取り除き、擦り合わせをしてピストンリングを交換しても、EXパイプを止めるスタッドボルトが酷く錆びた状態では、そのまま組むのは気が引けます。
その他、Oリングやステムシール、チェーンダンパ類などの樹脂、ゴムパーツは、基本的には全て新品に交換します。そもそも弾力が無くなっていますので、再使用は出来ません。
どこまでのパーツを交換するか、どんな内容の作業をするかは、作業者やショップによって異なります。
フルオーバーホールは、コストが掛かります。でも、今後も長く、調子良く、楽しく乗るために必要な作業です。信頼できるショップに依頼することが重要になります。コストの安さだけで選ぶのは、避けた方が良いかもしれません。
腰上とフルオーバーホールについて
あくまでも私個人の考え方ですが、腰上オーバーホールは、ピストンやバルブ回り、シリンダーヘッド等にトラブルが発生した際、そのトラブルを解消するだけの目的で行うものです。
ですから、15年以上経過した車両や走行距離が進んだ車両に、コストの兼ね合い(安く済む)で腰上オーバーホールを行うのは、あまり意味がないと思っています。
古いエンジン、距離の走ったエンジンに、カムチェーンもメタルも変えられない作業をする訳です。一度フルオーバーホールしたエンジンなら話は別ですが、そのような作業にコストを掛けて、その後どれほど安心して走れるのでしょうか?
年中エンジンを開けているレーサーの仕様変更なら話は別ですが、一度も開けていない古いエンジンでは、腰上オーバーホールはあまり意味はありません。
もしやるのであれば、「今起きているトラブルを解消するだけのもの」と考えた方が良いでしょう。
オーバーホール後の調子について
ノーマル車両(STD車両)でも、エンジンのフルオーバーホールをすれば、多くのオーナーの方はオーバーホール後にその違いに気付くと思います。
軽く回る、振動が減る、滑らかになる、音が静かになる、パワーが上がる、トルクが出る・・・。人により様々な表現や言い方がありますが、どれも当っています。
もしオーバーホール後に調子が悪くなるようなことがあれば、それは何か原因があるはずです。
当ガレージでは、エンジンを掛けて各部をチェックした後、必ず試乗します。万が一、不具合や不調が見つかれば、申し訳ありませんが納期をずらしていただき、原因を調べて対策をします。(今までにそのような事は、幸いにして一度もありません。)
ここで、オーバーホール後の注意点を二つほどお伝えします。
①慣らし運転が必要になります。
メタル類やピストンリング等の重要パーツが新品になります。ですから、エンジン回転を上げずに走行する、いわゆる「慣らし運転」が必要になります。
新車時の慣らし運転は、エンジンだけでなくサスペンションや各部の馴染みを良くするためにも重要ですが、エンジンオーバーホール時は、そこまで慎重になる必要はありません。
②セッティングは合いません。
例えばキャブレターのセッティングが合っていない場合は、エンジンをオーバーホールしたからといって、その事によりセッティングが合うことはありません。
つまり、調子が悪いのはキャブセッティングと分かっているような場合は、幾らエンジンをオーバーホールしても、それだけでは調子良くはならない、ということです。
足回り(サスペンション)のセッティングも、全く同様です。セッティングが合っていないから乗りにくいと感じる場合は、エンジンのオーバーホールとは別に、セッティングを合わせる必要があります。
エンジン自体の調子は良くなっても、キャブレターやサスペンションのセッティングで乗りにくいのですから、その原因を解決しなければ、楽しくはありません。オーバーホールとは別に考える必要があります。
当ガレージでは、豊富な経験から適切なアドバイスをご提供することができますので、セッティングでお悩みの方は、別途ご相談ください。
キャブレターに関しましては、ミクニTMRにつきましては、空燃比計を用いた詳細なセッティングも可能です。データも豊富にありますし、パーツも各種取り揃えております。
いつオーバーホールすれば良いのか?
いろいろと書きましたが、結局エンジンのオーバーホールは、何キロくらい走ったら、何年くらい経過したらすれば良いのでしょうか・・・?
答えは、『しようと思った時』としか、言いようがありません。
一番悪いのは、大きなトラブルが発生してからオーバーホールすることです。そうなると、オーバーホールだけでは済まなくなります。
異音がする、調子が悪い、オイルが漏れている、症状がどんどん酷くなる・・・
出先や遠方で症状が悪化したら、帰ってくることも困難になります。それらの症状が進行し、大きなトラブルに発展する場合もあります。
多くのユーザーは経験無いでしょうが、4サイクルエンジンは簡単にエンジン全損、という事が起こります。バルブが1本曲がったら・・・メタルが1ヶ所焼きついたら・・・オイルポンプが壊れたら・・・ピストンが溶けたら・・・バルブコッタが外れたら・・・
レースを長く経験していると、トラブルの前兆が分かるようになります。なぜなら、そのようなトラブルを何度も経験しているからです。
しかし、皆さんはおそらく経験が無いでしょう。ですから酷く壊れるまで、エンジンを止められません。オイルを抜いて様子を見ることが出来ません。エンジン内部を確認することもしません。
オーバーホールは、トラブルが発生する前にするものです。トラブルが発生すれば、オーバーホールではなく修理になります。酷いトラブルの場合は、多額のコストが必要になり、修理は現実的ではなくなります。中古エンジンを探したほうが、はるかに簡単ではるかに安く済むからです。
15年・5万キロ、この両方をクリアしている車両は、とっくにオーバーホール時期に来ていると思って、間違いありません。もしこの先も、しばらくは調子良く楽しく走りたいと思えば、2万キロでも3万キロでも「オーバーホール時期」です。
15年以上経過している車両なら、走行距離が何キロであろうと「オーバーホール時期」と思って、間違いないでしょう。
相談会で何でも聞いてください。
今月末の土曜日、2日間ですが、XJR1300に関する相談会を実施します。大それたことをする訳ではありませんが、日頃悩んでいること、セッティングについて、カスタムやオーバーホールについて等、XJR1300に関することなら、どんな事でもご相談に応じます。
もしこの時にオーバーホール等の商談が決まった方には、特別なサービスを考えています。
誰に相談したら良いのか分からない、一人で悩んでいる、そんな方は、ぜひこの機会に当ガレージまでお越し下さい。
スペシャリストが、あなたのお悩みやご相談事にお答えします。