エンジンの下ごしらえと仕込み作業

XJR1300エンジン

大学時代の友人が、昔ラーメン店をやっていました。いわゆる家系ラーメンで、当時は店舗数も少なく、また美味しかったので、良く行ったものです。

古い友人なので、開店前や閉店後にも遊びに行きました。準備や片付けを手伝ったり、スープの味見をしたりしながら、いろいろと彼の仕事を見ていました。

どんな仕事でも、知らない、とはそういうものだと思いますが、ラーメン店の仕事も、営業時間にお客さんにラーメンを作って出すのは、仕事の2割程度なんだな、と思ったものです。

まず、味を決めるスープを作ります。何時間もかけて煮込み、継ぎ足しながら味を維持します。豚肉を糸で巻いて特製醤油に漬け込み、チャーシューを作ります。ホウレン草をゆでます。もちろん、店舗の掃除や器具の手入れ、材料の発注から後片付けとゴミだし・・・仕事は山ほどあります。

その中で、営業時間中にラーメンをゆでてスープを入れ、トッピングを乗せてお客さんに出すのは、仕事の中のほんの一部に過ぎないのです。つまり、ラーメン店の仕事のほとんどは、仕込みや下ごしらえなんですね。

これって、おそらくどんな仕事でも同じなのではないでしょうか。外からでは見えない仕事、地味な準備作業が大半なはずです。でも、そこをどうやるかで、仕事の出来が決まってきます。

エンジンのオーバーホールやチューニングと言っても、組み立てるのは仕事のうちの2割程度で、あとはその為の準備や下ごしらえです。外からでは見えない、地味で暗い作業です。


パーツ発注

通常のオーバーホールの際、発注パーツは70種類以上になります。「1999年式XJR1300エンジンオーバーホールパーツ一式」などという、都合の良い部品番号はありません。ヤマハも、そんなに優しくはありません。作業者によって、また時と場合によっても、交換パーツは異なります。

ですから私は、基本発注パーツの一覧を作成しています。
STDエンジンの通常オーバーホールに必要なパーツの一覧です。

発注パーツは、Oリングだけでも20種類近くになりますので、一覧表には部品番号と共に、どこに使用するパーツなのかをメモ書きしています。
それだけで、いちいち調べなくても済みますので、作業効率が多少は良くなります。

発注パーツの一覧表

メタル類などは、エンジンを開けてみなければ発注パーツは分かりません。エンジンを分解した後、損傷や磨耗等によって交換が必要なパーツが出てくる場合もあります。ですからパーツ発注は、2回に分けて行うことになります。

まとめて1回でも良いのですが、時間的余裕も考えて、予め必要なことが分かっているパーツは、先に発注するようにしています。実際は、基本パーツは1台分を在庫するようにしています。

こうしておく事で、何らかの理由でパーツが足りなくなった場合にも、即座に対応できます。


洗浄

分解したエンジンパーツは、そのままではオイルでベトベトですし、埃やゴミが付着していきます。修理や応急処置ならいざ知らず、分解したエンジンパーツを洗浄液で洗うのは、基本中の基本です。

しかし、オイルや汚れ、スラッジを洗浄するだけでは、パーツはキレイにはなりません。

クランクケースに付着している液体ガスケット
クランクケースに付着している液体ガスケット

クリーニング後のクランクケース合わせ面
クリーニング後のクランクケース合わせ面

クランクケースに付着している液体ガスケット
クランクケースに付着している液体ガスケット

クランクケースの合わせ面には、液体ガスケットが塗布されています。
洗浄前に、アッパーケースとロアケースの合わせ面に付着している液体ガスケットを、キレイに取り除きます。

スクレッパーを使うと合わせ面にキズが付きやすくなりますので、慎重に使います。あとは、ひたすら指とパーツクリーナーとウェスで、合わせ面をキレイにしていきます。

その他、エンジンパーツ以外の汚れた部品やボルト類も洗浄します。

洗浄後のマウントパーツ
洗浄後のマウントパーツ

洗浄後のマウントパーツと汚れた洗浄液
マウントパーツと汚れた洗浄液

エンジンのマウントボルトやパーツ類を洗浄するだけでも、洗浄液はこれだけ汚れます。

洗浄前のクランクケース締め付けボルト
洗浄前のクランクケース締め付けボルト

ボルトを洗浄した後の洗浄液
ボルトを洗浄した後の汚れた洗浄液

これはクランクケースの締め付けボルト類ですが、キチンとしたトルク管理をするためにも、組み付け前に洗浄します。

洗浄後の洗浄液の汚れを見ると、洗浄しないで組み付けることが、どの程度よろしくないのかが、容易に想像できます。

その他にも、オイルパンやクラッチカバー、テンショナー等にはガスケットが使用されていますが、そのガスケットも時間が経過しているので、簡単には剥がせません。

古いガスケットが残ったオイルパン部
古いガスケットが残ったオイルパン部

ガスケットをキレイに取り除いたオイルパン部
ガスケットをキレイに取り除いたオイルパン部

パーツ類を洗浄する前に、このように液体パッキンやガスケットの残り、カスなどをキレイに取り除いておく必要があります。

エンジン作業の中でも、一番地味な作業かもしれません。
でも、絶対に手を抜く事のできない作業でもあります。

取り除いた液体パッキンやガスケットのカス
取り除いた液体パッキンやガスケットのカス

その他にも、エンジンを降ろさないと見えてこないフレームやスイングアーム等のクリーニング作業もあります。一口に洗浄作業と言っても、やることはあなたが思っている以上にあります。

大切な愛車を任せるのですから、それらの作業を当たり前にやってくれるショップを選びたいものですね。


加工

XJR1300も、今では立派な旧車です。分解していく際に、抜けないボルト、折れるボルト等も出てきます。そんな時は、潔く内燃機加工屋さんに依頼することにしています。

その他にも、ヘッドやシリンダーの面研磨やカムスプロケットの長穴加工、バルブシートカットやバルブフェース研磨等が必要な場合も、内燃機加工屋さんに依頼します。

内燃機加工屋さんに依頼すると、どんなに急いでもらっても、1週間は掛かります。当然、その間の作業が出来ません。ですから要領良く仕事を進めないと、納期に間に合わない、という事態にもなりかねません。段取りが重要です。

他にもポートの拡大加工の依頼があった場合は、その筋の職人に依頼します。私が加工するよりも、断然キレイで正確に仕上がります。私の愛車のポート加工も、その職人に依頼しています。

その他、バルブや燃焼室、ピストン、ポート等のカーボン除去や、バルブの磨き・擦り合わせなど、洗浄と合わせて行う作業もたくさんあります。

それらが全て終わって、やっと組み立て作業に入ることができます。ですからこの時点で、仕事の8割程度は済んでいるような気がします。

エンジンのオーバーホール作業も、やはり段取りや下準備、下ごしらえが一番重要なんですね。ラーメン屋さんと同じです。

見えないところでの地道な作業や、見方を変えれば面倒くさいと思われる事に、どれだけ時間や手間、エネルギーを掛けられるかで、その出来栄えは決まってくると思っています。