バルブタイミング調整とバルブクリアランス調整

シリンダーヘッドを組み上げたら、まずヘッド単体の状態でカムシャフトを取り付け、バルブクリアランスを調整します。

ヘッド単体でのバルブクリアランス調整

バルブシートとバルブフェースを研磨していますので、研磨した分、バルブはカムシャフト側に上がっていることになります。つまり、クリアランスが以前の状態に比べて狭くなっている、ということです。元々入っていたシムでは厚すぎる訳です。

入っていたシムの厚みから少し薄めのシムをとりあえず組み付けて、まずはスタートします。カムホルダーを規定値のトルクで締め付け、カムシャフトを回転させながらクリアランスを測定していきます。

ヘッド単体ですので、カムシャフトは簡単に外せます。ですから測定後、カムシャフトを一旦取り外し、クリアランスが不適切な箇所のシムを交換します。その後、再度カムシャフトを取り付けて、クリアランスの測定をします。

カムシャフトを一旦取り外す。

この時、INとEXのカムシャフトは同時に取り付けません。必ず1本ずつ取り付けて、クリアランスを測定します。

なぜなら、バルブタイミングなど関係なくカムシャフトを回転させますので、INとEXのバルブが干渉する恐れがあるからです。まあ、STDカムシャフトであればあまり問題はないのですが、念のためです。クセにもなっていることですから、1本ずつ行うこととします。

INとEX、それぞれ2回のクリアランス測定をした後、カムシャフトを取り外し、ヘッドをエンジンに組み付けます。


バルブタイミング調整

今回は、シリンダーヘッドを0.3ミリ面研磨しました。ヘッド面は傷んではいませんでしたが、お客様のご要望でちょっとだけ圧縮比をアップさせることが、今回の面研磨の目的です。トルク感を少し上乗せしたい、ということです。歪みを取ることも出来ますので、その意味では一石二鳥と言うこともできます。

バルブタイミングを調整するには、カムスプロケットの取付け穴を長穴にする必要があります。以前、自分でリューターを使って穴を広げようと試みたことがありますが、このスプロケットが非常に硬く、火花が出るだけでほとんど削れませんでした。

ですからその後は、加工屋さんに依頼しています。自分で上手く出来ないことに多大な労力を使うより、慣れた専門家に任せるほうが、よほど効率的ですからね。

加工前と加工後のカムスプロケット

右側のスプロケットが加工前のSTDで、左側が長穴加工したものです。ここを長穴にすることにより、スプロケットは同じ位置でも、カムシャフトをずらして固定することで、バルブの動きを早めたり遅くしたりできるのです。

ちなみにこのバルブタイミングですが、STD状態でピッタリ合っているのかと言われれば、実はそうでもありません。製品誤差もあります。カムチェーンの伸びでもタイミングは変わってきます。

走行距離の進んだエンジンでは、5~8度遅くなっているなどという事は、当たり前です。この程度の狂いであれば、問題なく走れます。

じゃあバルブタイミングなんて、手間とコストを掛けて調整する必要なんてないじゃないか、という意見もあるでしょう。でも、そんな事はありません。

STDカムシャフトだろうが、社外のレーシングカムシャフトだろうが、製造メーカーが設定したバルブタイミングがあります。ちゃんと数字として指定されています。そこに合わせれば、一番効率よく燃焼させて出力が出る、という理由です。

速さやタイムを競うレースの世界では、昔から当たり前のように行われている調整作業です。気持ち良く、楽しく走るために、そこまでこだわってみるのも楽しいものです。

私は昔から、自分のエンジンでは必ずバルブタイミング調整はしています。社外カムシャフトを組んでいますので、装着するに当たっての必須作業とも言えます。

バルブタイミング調整中

 バルブタイミング調整中

 バルブタイミング調整中

 バルブタイミング調整中

カムスプロケットの取り付けボルトを緩めてカムシャフトを微調整したらボルト固定し、バルブタイミングを測定します。また緩めてカムを微調整し、再度測定します。この作業を、求めるタイミングに合うまで繰り返し、タイミングが合ったらボルトを1本ずつ抜いて、脱脂した後にネジロックを塗布し、カムシャフトとスプロケットを取り付けボルトで固定します。

面倒くさいかと言われれば、面倒くさい作業です。時間も掛かります。スプロケットの加工代も必要です。でも、必要な作業だと考えれば、なんてことはありません。

ちなみにカムチェーンもチェーンですから、伸びます。新品のカムチェーンを組んでいますので、伸びることはあっても縮むことはありません。

カムチェーンが伸びると、テンショナーはエンジンの背面(吸気側)にありますので、バルブタイミングは遅くなってきます。ですから初期の伸びを見込んで、少しだけ早めに設定します。慣らしが終わってカムチェーンが少し伸びた頃、ちょうどバルブタイミングが合うようにするためです。


バルブタイミングを合わせたい方

カムシャフトを社外品に変更する場合も、シリンダーヘッドを面研磨して圧縮を上げる場合も、それだけでバルブタイミングは狂いますので、バルブタイミング調整が必要です。

STDエンジンをオーバーホールする際も、ご要望があればバルブタイミングを調整します。

ご興味のある方は、まずはお気軽にお問合せください。