抜けないボルト

XJR1200や1300のエンジンをオーバーホールする際、必ずと言って良いほど、抜けないボルトやダウエルピンが出てきます。その代表格が、シリンダーのダウエルピンです。


錆びたダウエルピン

XJR1300には、ヘッドとシリンダーの間に4つのダウエルピンが入っています。その内の1つ、3番と4番の間に入っているダウエルピンが、必ずと言って良いほど錆びています。それがシリンダーに固着しており、いつも抜けません。

面をキズ付けないように養生して、出来ることをやってみますが、2台に1台は、どうにもなりません。そのような時は、酷いことになる前に、潔く内燃機加工屋さんに依頼します。

XJR1300の抜けないダウエルピン

これは、加工屋さんに依頼した後の写真です。毎回決まって同じ箇所が錆びて抜けませんので、水が入りやすい、もしくは抜けにくい等の原因があるものと思われます。

ダウエルピンが抜けたシリンダー側も、新品のダウエルピンがスムーズに入るよう、穴の錆を取るなど修正しておきます。間違っても、叩くなどして無理に入れてはダメです。


抜けないボルト

実はXJR1300を分解する際、一番やっかいで一番慎重になるのが、このバッファプレートを止めているボルトを抜く作業です。

良く折れるバッファプレートの固定ボルト

写真は、無事ボルトを抜き終わった後ですが、3台に1台はボルトが折れます。叩いて振動を与え、バーナーで十分に炙って慎重に作業しても、折れます。一度緩んだからといって雑にボルトを回すと、簡単に折れる場合もあります。

取り外したバッファプレートの固定ボルト

これが抜き取ったボルトです。
M5の柔らかそうな短いボルトです。

今まで何度コイツにやられたことか・・・

以前に一度、ここのボルトを折った際、ボルト抜きとヘリサート挿入を加工屋さんに依頼した事があります。その際、クランクケースを破損された苦い経験があります。

この部分、ネジ穴を作るためにケースの裏側に突起があります。つまり、ケース側には余裕がなく、ネジ穴を作るために肉を盛っている訳です。その部分を破損させてしまったのです。

ですから破損部を修正するために、ケースを溶接して肉盛りし、穴を開けてネジ穴を作り直しました。

外さなくても良いなら外したくありませんが、こいつを外さないとオイルポンプが取り外せません。しかもネジロックが付いた細いボルトが使用されていますので、抜きにくいことこの上ないのです。

いつも泣きそうになりながら、このボルト抜き作業をやっているのは、内緒です。


抜けないスタッドボルト

抜けないスタッドボルトの代表格が、シリンダーヘッドのEXパイプを固定するスタッドボルトです。

エンジンで一番熱を持つのが、シリンダーヘッドのEX部です。だからバルブもEXは熱処理がされており、INより小さいにも関わらず、価格は高くなっています。

そんな箇所に使われているボルトですから、常に高温状態です。しかもエンジン前面ですので、風雨にも晒されています。そんな状態ですから、どんなに保存状態の良いオートバイでも、見た目で傷んでいるのが分かります。

シリンダーヘッドのスタッドボルト

これだけキレイに保存している方のオートバイでも、この状態です。酷いエンジンになると、ボルト全体が錆びていてボロボロです。見ただけで、無事に抜ける気がしません。

取り外したヘッドのスタッドボルト

抜き取ったスタッドボルトです。
数を数えると、7本しかありません。
(奥にある4本は、別の箇所のスタッドボルトです。)

はい、1本抜けませんでした。
これも潔く加工屋さんに依頼することとなりました。


抜けないスタッドボルト2

今回は、もう1本抜けないスタッドボルトがありました。こちらです。

抜けないクランクケースのスタッドボルト

クランクケースのスタッドボルトです。この1本だけ、どうしても抜けません。こんな時は、コストは掛かりますが、プロにお願いするのが無難です。

これらの抜けないボルトの特徴は、一度緩んだにも関わらず、その後も硬くてボルトが回せない、ということです。硬くても人力で回せることが出来れば、そのボルトは外せます。しかし一度緩んだにも関わらず、ボルトが硬くて回らずに折れてしまう、ということは、実はよくあります。

普通に考えれば、硬く締まったボルトでも一度緩めることが出来れば、クルクルと回りそうなものです。しかしそれは、ボルトもネジ穴もキレイな状態であることが前提です。

一度は緩んだ、という事は、ボルトは多少でも回ったということです。それでも回せないのは、ボルトが回った際に、固着したネジ穴部を痛めてしまった、と考えるのが妥当でしょう。

ですから、たとえ何とかボルトが抜けたとしても、そのような箇所のネジ穴は傷んでいます。組み付ける前に、タップでネジ穴を修正しておく必要があります。

オイルバッファプレートの取り付け部をタップで修正します。

クランクケースのスタッドボルト取り付け部をタップで修正します。


抜けないボルトがもう1本

今回は、珍しい箇所のボルトが1本抜けずに難儀しました。そのボルトです。

サブフレームの固定ボルト

これは右側のサブフレームを固定するボルトです。
人力ではナットが緩まず、インパクトを使って緩めました。

写真を撮った後、当然のようにナットと共に廃棄です。もちろん、油分のかけらもありません。

締め付けトルクも過剰だったかもしれません。

通常、ユーザーはご自身で、このボルトを取り外したりはしません。これも上記のスタッドボルト同様、時間の経過によるものでしょう。


XJR1300は、立派な旧車です。

XJR1200の登場が1994年、1300になったのが1998年ですから、XJR1300もすでに発売から20年が経過した、立派な旧車です。

インジェクションモデルが近年まで発売されていましたので、あまり古いイメージはありませんが、20年物のエンジンを開けると、時間の経過を感じさせられます。

どんなに状態良く保存していたとしても、例え動かさないでいたとしても、時間の経過と共に各部は劣化します。新車購入して3年後には簡単に抜けたボルトも、15年経つと抜けなくなるのは、その良い例です。

形あるものは、いつかは壊れます。機械ですから、いつかは動かなくなります。でも、それをできるだけ状態良く維持したり長持ちさせることは、工夫次第で可能です。

旧車の代表格といえば、カワサキZ系が有名です。専門にメンテナンスをしている友人もいます。その方たちの話を聞く限り、XJR1300はまだだいぶマシだと思えます。

中古車もパーツも、まだ幾らでも入手できます。前身のFJとZ系を比べても、エンジンの設計された時代が異なりますので、材質も作りも良いです。しかし、時間の経過だけはどうしようもありません。

特にキャブレター時代のXJR1300は、立派な旧車だということを、ユーザーの方は自覚して下さい。トラブルが起きたり壊れてからでは、コストも手間も数倍必要になります。

オイル交換を含めた日常のこまめなメンテナンスが、長持ちさせる第一歩です。

あと10年は楽しく乗りたい、とお考えなら、大きなメンテナンスはプロに依頼して下さい。コストは掛かっても、楽しく安心して乗れますから・・・


XJR1300のエンジンオーバーホールをお受けします。

既に旧車の仲間入りをしているXJR1300ですが、これからも楽しく安心して乗るためには、エンジンのオーバーホールが必要です。

痛んだパーツを交換し、下がった圧縮を回復させ、滑らかに回るエンジンに仕上げます。

6月の予定がキャンセルになりましたので、今ならすぐにあなたの車両に取り掛かることが出来ます。

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