キャブセッティング、レーサーと街乗りの違い

ミクニ製TMRキャブレター

サーキットを走るレーサー(レース用マシン)は、速く走る事を目的にキャブレターのセッティングをします。他に目的はありません。

最新のオートバイは、全てインジェクションになっていますが、旧車レース等では、未だにキャブレターのセッティング風景をよく見かけます。

対して街乗り用のマシンは、速く走ることだけが目的ではありません。多くの方の目的は、「楽しく走る」ことでしょう。もちろんその中には、速く走る事も含まれている方はいるでしょうが。

加速を速く、最高速を速く、他人より速く・・・
だからわざわざ高価なレーシングキャブレターを購入する訳です。

では、レーサーと街乗りマシンでは、キャブレターのセッティングは異なるのでしょうか?


セッティングとは?

そもそもセッティングとは、どういう意味なのでしょうか?
調べてみると、
「適切な位置に準備、配置すること。」と要約されるようです。

それをキャブレターに当てはめると、
「適切に機能するよう、調整すること。」といった意味になるのでしょう。

レースでのセッティングの目的は、「速く走る事」ただこれだけです。この1点です。他に目的などありません。ですから当事者たちは、皆必死でセッティング作業に時間やコストや知識といったエネルギーを使います。

セッティングの出ていないマシンで幾ら頑張って走っても、ストレートで簡単に抜かれます。ライダーとしては、ガッカリです。走りでは負けていないと思っていても、マシンで簡単に負けるからです。正確に言えば、セッティング能力で負けている、ということになります。

対してストリートユーザーの多くの方は、セッティング作業をあまりしません。実際は、ほとんどのユーザーの方が、セッティング作業を全くしていないと思われます。いわゆる『ポン付け』です。

調子があまりよろしくないキャブレターでそのまま走っている方は、決まって次のような言葉を口にします。

  • レーシングキャブレターは、こんなものかと思っていた。
  • ノーマルエンジンでは、この程度だと思っていた。

レーシングキャブレターでも、調子良く走ることは出来ます。調子が良くないということは、「適切に機能するよう、調整すること。」が出来ていない、ということです。つまり、セッティング出来ていない・・・


実際のセッティング方法

キャブレターのセッティングは、サーキットでも公道でも、基本的な考え方は何も変わりません。ネガな部分を無くしていくこと、これだけです。単純です。

ただし、準備と根気は必要です。

必要な準備

まず、キャブレターを取り外しする程度のスキルと工具は必要です。その他に、最低限の交換用各ジェット類が必要になります。

サスペンションのセッティングをしようと思えば、数種類のスプリングが必要です。ただ、そうは言っても、スプリングを個人用に数種類も用意するのは、あまり現実的ではありません。

しかし、イニシャル調整とダンパー調整だけでも、ある程度は乗りやすいセットを見つける事は可能です。

しかしそれがキャブレターとなれば、パーツを交換しないで調整できるのは、スクリュー類の締め込み量とジェットニードルのクリップ位置くらいしかありません。

これでは、まともなセッティング作業など、できるはずはありません。最低でも各ジェット類は、番手の異なる種類を複数入手する必要があります。ニードルも、1ランク太いものと細いものくらいは、欲しいところです。


必要な根気

「ネガな部分を無くしていく」作業をしていけば、結果として「どこからでもスムーズに吹け上がる」キャブレターのセットを出すことができます。

言葉で言えば簡単ですが、実際にやろうと思うと、根気が必要になります。その作業を楽しむ、というくらいの気持ちがあれば、楽しんでできる作業だとも思うのですが・・・

なぜ根気が必要なのかと言えば、「同じような作業を繰り返す必要がある」からです。キャブレターを車体から取り外し、ガソリンを抜いてMJを変えて、またキャブレターを取り付けて、実際に走行して、その違いを判断する、といった作業です。

その作業を、それぞれのアクセル開度で行なっていくのです。時には行き過ぎて、せっかく調子良くなったものが悪くなる場合もあります。でも、そんな作業も必要なのです。なぜなら、どこまで行ったら悪くなるのか、やってみないと分からないから、です。

例えば、150番のMJを155、160と変更していき、良くなったとします。でも、165にしたらもっと良くなるのか、それとも悪くなっていくのか・・・

165番で悪くなったから160番でいこう、と初めて判断できるのです。ですから、変更して良くなっていっても、悪くなるまで変更を続けていかなければ、ベターであってもベストにはならない、ということです。

しかも、レーシングキャブレターには変更できるジェット類は幾つもあります。
ネガな部分、つまり調子が悪いところを、「薄いのか、濃いのか?」を判断する必要があります。

時には薄いと思って濃くしたら、かえって悪くなった、という事もあるでしょう。しかしその作業をすることによって、濃い状態で調子が悪かった、ということが分かります。それが分かれば、薄い方向のテストをしていけば良いのです。

そんな、地道な作業を続ける根気が、キャブレターのセッティングには必要になってきます。

もしそんな作業をご自身でやってみたい!、と思われた方は、おめでとうございます!マニアの資格が十分にあります。

「そんな面倒くさいことなんて、やってられないよ!」と思われた方は、調子悪いまま走るのではなく、ショップでセッティング作業を依頼することをお勧めします。たとえ高額だと感じたとしても、調子悪いまま走り続けるよりは、よっぽどマシかと思います。

ちなみに個人的には、この作業を2万円や3万円では、やりたくはありません。それくらい、手間隙の掛かる仕事なのです。

TMR-MJNのオーバーホール


レーサーと街乗りのセッティングは違うのか?

レーサーと街乗りマシンでは、目的とするところが違います。ですから、セッティング作業のプロセスも変わってきます。

例えばレーサーでは、アクセル開度1/8のパーシャルから、なんて気にもしません。でも街乗りマシンでは、最も使う部分だったりします。1/2開度の息付きは、レーサーでは致命傷ですが、街乗りマシンでは、アクセルの開け方一つで、どうにでも誤魔化せます。

私の個人的な経験では、サーキットでセッティングを出したマシンを公道に持ち込んで、不満が出たことはありません。それは、「多少のことは乗り手が何とかするもの」という、長年の悪いクセのせいかもしれません。私よりも繊細でセッティング能力の高い方なら、おそらくダメだしもあるのでしょうが・・・

一方で、街乗りでセッティングしたマシンをサーキットに持ち込むと、アクセルの付きや高速域で不満を感じることがあります。これは、150馬力前後のオートバイを、公道では全開テストがキチンと出来ないからだと思っています。

キャブレターのセッティングは、エンジンの回転数ではなく、アクセル開度で判断していきます。チューンした150馬力を超えるオートバイで、3速、4速、5速での全開テストなんて、そう簡単に出来るものではありません。

そもそも、そのような状況を作ろうとすれば、物凄いスピードになってしまいます。だから、どうしてもその辺りが甘くなってしまう・・・そう思っています。

ただ現在は、良い機械が安価で出回っています。昔あったら、もっとセッティングが楽に正確に出来ただろうな、と思わせるものです。

今さらですが、そんな機械を導入して、今までは感覚で行っていたキャブレターのセッティング作業を、数字として確認しながら、いろいろと実験してみようかな・・・そう思っている、今日この頃です。