レーシングキャブレターの使い方

オートバイのカスタムには、公道使用が前提にも関わらず、『circuit used only・サーキット使用限定』のパーツ類が数多く使用されています。その中でも代表的なものが、レーシングキャブレターです。

最新機種は排ガス規制の影響でインジェクション化されていますが、少し前のオートバイには、FCR・TMRといったレーシングキャブレターも、よくカスタムパーツとして使われています。

XJR1300用レーシングキャブレター
ヨシムラMIKUNI TMR-MJN40キャブレター


簡単で手頃なパワーアップパーツ

キャブレターを変更すると、1ランク上のパワー感を得る事が出来ます。エンジンに手を加えることなく、簡単にパワーを手に入れることが出来るのです。だから飛びつくユーザーも多いのです。

取り付けピッチやジェッティングなど、車種別に設定もされていますので、複雑な加工などは不要です。ですから少し器用な方なら、ご自身で取り付ける事も出来ます。

吸気音も大きくなり、いかにもレーシーなムードが漂います。


ポン付けで走れるのか・・・?

各ジェット類などのセッティングは、車種別にメーカー設定されていますので、ポン付けである程度は走れるようになっています。ですから多くのユーザーは、そのままの状態で使用します。

しかし本当に、ポン付けで不具合なく走れるのでしょうか・・・

現実には、セッティングの出ていないマシンに何度も試乗しています。低速がバラついている、中速に谷がある、明らかにメイン系が合っていない、などです。

そもそも相手は、レーシングキャブレターです。大きなクリーナーボックスの付いたSTDキャブレターとは訳が違います。

レースでより速く走るために作られた機能パーツです。いくら車種別に設定されているとはいえ、オートバイメーカーのように膨大な時間を掛けて実走テストをしているとも思えません。

つまり、ユーザーがある程度の作業をしてやらなければ、本来の性能を発揮できないパーツなのです。


不具合の2大要因

調子の悪いマシンには、大抵の場合、共通する2大要因があります。

  • ノーセッティング
  • ノーメンテナンス

調子の悪い状態で乗っているユーザーから良く聞く言葉は、
『こういうものだと思っていた』というものです。

いやいや、そんなことはありません。各部を調整しセッティングを出せば、どこから開けてもキチンと加速するハズです。谷があってスムーズにつながらない、バラつく、というのは、必ずその原因があるものです。

『こういうものだと思っていた』と言うことは、初期段階からその状態で走っていたということで、つまり初期設定から全くセッティング作業をしていなかったことになります。

使用しているマフラーは人それぞれです。乗り方もエンジンの状態も、マシンによって異なります。その上、車種別設定されているとはいえ、出荷元によっても設定は異なっています。

初期設定は、あくまでも『この状態ならとりあえず走れるだろう』程度のものです。微調整やセッティング作業は必ず必要になる、と考えて使うべきです。

分解したミクニ製TMRレーシングキャブレター
ヨシムラMIKUNI TMR-MJN40キャブレターのオーバーホール

もう一つの要因は、『ノーメンテナンス』です。

ファンネル仕様でオーバーホールもせずに10年間使っている、という話は、良く聞きます。そのような状態でレーシングキャブレターの本来の性能が発揮されているとは、とても思えません。調子が悪くて当たり前です。

クリーナーボックスがありませんので、当然ですがゴミや異物を吸い込みます。内部に汚れも溜まります。内部の消耗も進みます。

そもそもレースで10年間ノーメンテナンス、なんていうことは、有り得ません。日頃のメンテナンスを前提に作られているパーツです。そんなパーツをノーメンテナンスで使う事自体が問題なのです。

せめて1~2年に一度は、バラしてエアを通すくらいのメンテナンスはしたいものです。それだけで調子は良くなります。

10年間ノーメンテナンスで使ったFCRを分解すると、ボディは磨耗しスロットルバルブのアルマイトは剥げ、浮動バルブのシール性能は無くなっており、加速ポンプは正常にガソリンを噴きません。

これらのパーツを全て交換しようと思えば、パーツ代だけで10万円近く必要になります。ノーメンテナンスの代償、ということです。しかし多くのユーザーは、パーツ交換もせずに使い続けます。


必要な作業とは?

必要な作業は簡単です。

調子の悪い要因が、ノーセッティングとノーメンテナンスなのですから、するべき作業はセッティングとメンテナンス、ということです。

初期設定で調子良く走れることは稀です。まずは取り付けたら、あなたのマシンの状態に合ったセッティングを探してみてください。難しく考えずに、不具合や調子の悪いところを修正していけば良いのです。もちろん、ある程度のパーツを揃える必要はありますが、変化を感じられる楽しい作業です。

今は便利な機械も普及しています。排気ガスから空燃比を測定することもできます。空燃比を測定することによって、人間の感覚だけでセッティングするのではなく、どうすればより良いのかを探る近道にもなります。

もちろん、セッティングの出にくい条件はあります。たとえば4in1の集合部を持つマフラーは、4in2in1に比べて中速が出にくい、と言われています。気温や湿度によっても、厳密に言えば変化します。

しかしいくらレーシングキャブレターとはいえ、使える幅はあります。何もピンポイントで正確に探し出す必要はありません。一度セッティングを出せば、夏と冬の気温の変化で不具合が出るほど乗り味が変わることは、ありません。

セッティングが出たキャブレターでは、メインジェットを1ランク上げても下げても、ちゃんと走ります。ですから乗っていて不具合が出るということは、もっと大きな調整が必要だということです。

メンテナンスは、セッティング同様に重要な作業です。キャブレターを取り外して分解し、各通路をエアーで吹いて各部をクリーニングするだけで十分です。

ファンネル仕様の方は、走行距離にもよりますが、できれば1年に1回はしたいところです。


自己責任が大前提です。

TMR、FCRといったキャブレターは、あくまでもレーシングキャブレターです。調整、セッティング、メンテナンスは必ず必要になる、とお考えください。

ポン付けでちゃんと走らない、というクレームは、メーカーでも販売店でも受け付けてくれないパーツです。その事を理解したうえで、ご自身の責任でセッティングやメンテナンスをする必要があります。

そうは言っても、ご自身でそこまで出来る方はごく一部でしょう。であるならば、出来るショップでしてもらいましょう。

いくらお金を掛けてカスタムやチューニングしても、肝心のキャブセッティングすら出ていないような状態では、走っていても面白くありません。仕事でオートバイに乗っている訳ではありませんから、走って楽しくなければ乗る意味もありません。

レーシングキャブレターは、セッティングとメンテナンスをした上でキチンと使えば、STDキャブレターよりも1ランク上のパワー感をあなたにもたらしてくれる、非常に優れたパーツです。


FCRとTMR、どっちが良いのか?

ここから下は、私個人の少ない経験と偏見に基づいたものですので、あくまでもそう考えているヤツもいるんだ、程度に思って読んでください。

時々お客様やXJR1300のオーナーの方に、『FCRとTMR、どっちが良いのですか?』と聞かれます。個人的な好き嫌いで言えば、断然TMRの方が好きです。あくまでも好き嫌いの問題で、性能差は分かりません。突き詰めて比較した事がありませんので。

では、なぜTMRの方が好きなのかと言えば・・・

  • 作りが良い。
  • 長年使って、慣れている。
  • メーカーの担当者とパイプがある。
  • 調子の悪いキャブはFCRの方が多い。
  • FCRは消耗パーツが多い。
  • 重すぎるリターンスプリング


作りが良い。

FCRはファンネルが樹脂製であるのに対し、TMRはアルミ製がスタンダードです。

また、FCRはスロットルバルブが樹脂ローラーで動くのに対し、TMRではベアリングが使われています。


長年使って、慣れている。

TMRはもう20年以上使っており、個人的に慣れています。
長年使っていますので、ジェット類やニードル等も複数所有しています。ですから、XJR1300でTMRを使うには、十分なパーツが既にあります。

慣れていますので、加速ポンプの微調整も簡単に出来ます。


メーカーの担当者とパイプがある。

FCRの製造元であるケーヒンには、知り合いが全くいないのに対し、ミクニには知人がおり、直接相談できることも大きな理由です。

またミクニは、レースやイベント等にも良くブースを出しており、どなたでも気軽に相談することが可能です。


調子の悪いキャブはFCRの方が多い。

これは、FCRの方が大きなシェアを占めていることも理由だと思いますが、何故か調子の悪いキャブレターにはFCRが多いのです。

私個人の数少ない事例なので、市場全体ではどうなのかは分かりません。でも、何故かFCR装着車ばかりなのです。

FCRは、出荷元が異なると初期設定も異なる、と聞いています。その上、初期のセッティングがTMRと比較して、アバウトな気もしています。


FCRは消耗パーツが多い。

ファンネル仕様で5年以上使用されたFCRを分解すると分かりますが、FCRはいろいろなパーツが消耗します。

まず、スロットルバルブのローラーによって、ボディが消耗します。酷い車両では段付きがハッキリと分かるほど消耗しています。

スロットルバルブのアルマイトも、消耗して剥がれています。スロットルバルブには浮動バルブというパーツが付いていますが、その浮動バルブも消耗しています。

加速ポンプのダイヤフラムも消耗したり硬化しており、正常な作動をしない車両も見かけています。

オーバーホールした際、スロットルバルブと浮動バルブを交換すると、それだけで8万円以上の部品代が必要です。しかもケーヒン指定のグリスは数万円もする高価なものです。加速ポンプのダイヤフラムまで交換し、工賃も含めれば、簡単に10万円を越えてしまいます。しかも、ボディも消耗品ときています。

TMRキャブレターは、ここまで消耗はしません。確かに長年使っていて、ボディが消耗したこともありますが、ごく僅かなものでした。

頻繁に消耗パーツを交換した記憶もなく、メンテナンスだけで長年に渡り調子良く使っています。


重すぎるリターンスプリング

現在のFCRのリターンスプリングは、重すぎます。一般公道でのスロットルの張り付き防止の意味合いが大きいのでしょうが、これはいただけません。乗る気もしません。

柔らかいスプリングを入手できますが、交換作業は一般ユーザーが簡単にできるようなものではありません。不親切なことこの上ない、といった印象です。これがケーヒンの企業としての姿勢なんだな、と個人的には判断しています。

FCRキャブレターのリターンスプリング2種類

ただし、このような重いリターンスプリングをメーカーが付けるようになったのは、一般公道で使用するユーザーの責任でもあります。

メンテナンスもせずにゴミや異物を吸い込ませながら使用すれば、ボディや各部はどんどん消耗し、結果として作動不良を起こし、最悪の場合スロットルの張り付き現象を起こします。

事故の原因がキャブレターとなれば、メーカーだって黙って見ている訳にもいきません。企業としては、対策をするのは当然です。

私は、お客様が希望すれば、軽いスプリングの使用を勧めています。その代わり、頻繁なメンテナンスは必ず必要になります。多少の手間やコストは必要になりますが、その方が乗っていて楽しいですし、右手首が腱鞘炎になる心配も不要になります。


以上のことから、私がFCRとTMRのどちらが良いのかを聞かれた時は、個人的な考えとしてTMRを勧めています。

これは、製造メーカーや製品を否定するものではなく、あくまでも個人の好き嫌いだけの問題ですので、その点はご理解ください。


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