エンジン組立て・バルブタイミング調整
納車まで時間が無いので、急ピッチで作業を進めています。今日の予定は、バルブタイミング調整、バルブクリアランス確認をして、エンジンの完成と載せるための準備までです。
カムスプロケットの長穴加工
左がカムシャフトから外したスタンダードのカムスプロケット、右が取り付け穴を長穴に加工したカムスプロケットです。
シリンダーヘッドを面研磨した場合、クランクシャフトとカムシャフトの距離が、面研磨した分、短くなります。両者はカムチェーンで繋がっていますが、その距離が若干ですが変化します。
すると、クランクシャフトが同じ位置(つまり、ピストンが同じ位置)でも、カムシャフトのその時の角度が変わってしまう、という事です。カムシャフトの角度が変わってしまうと、バルブの開閉タイミングも変わってしまいます。
その面研磨によって変わってしまったバルブの開閉タイミングを、適正なタイミングにしてあげるために、バルブタイミング調整をする訳です。その為に、カムシャフトに固定するカムスプロケットの取り付け穴を長穴に加工します。
このカムスプロケットですが、磨耗を抑えるための処理がされており、非常に硬いです。トライした方ならお分かりかと思いますが、リューターで削ろうとしても、火花が出るだけでほとんど削れません。ですから、私は自分では削りません。面研磨を依頼する際、内燃機屋さんに同時に加工依頼します。
そうやって加工されたカムスプロケットが、上記の写真右側のものです。
勘の良い方ならお分かりかと思いますが、カムスプロケットの位置をずらす場合、カムシャフトに対して水平方向ではありません。回転させてずらします。ですから長穴加工は、R形状にしなくてはいけません。
以前、一度だけ水平方向に加工されたことがありました。当然、位置をずらす事は出来ませんでした。ゴミ箱行きです。
以上のような理由で、思いの他、加工工賃を取られます。アメリカ製のドラッグパーツにFJ用のカムスプロケットがありますので、始めからそれを使っても良さそうですが、私は使いません。アメリカ製のドラッグパーツに良い思い出が無いのです。
価格は、STDを加工してもアメリカ製を購入しても、おそらくさほど変わりません。でも、納期が数ヶ月も必要です。精度や強度面でも不安があります。
アメリカ製ドラッグパーツのトラブル
XJR1300でレースをしている時に、吹き抜け防止の為に、クロモリのスタッドボルトを使用した事があります。STDのスタッドボルトでは、幾らトルクを掛けていっても、ある一定以上掛ければ、スタッドボルトが伸びていくだけです。ですから、クロモリを使ってみました。
しかし、1年間で2度も折れました。しかも一度は、クランクケースの取り付け穴の中でした。スタッドボルトを1本変えるのに、レース前日に徹夜してケースを割りました。
XJR1300は、ご存知のようにアウターシムです。それをインナーシム化するためのキットもあります。チタンリテーナやバルブリフタがセットになったものです。動弁系の重量を軽くし、インナーシム化することでシム飛びのリスクを減らします。
しかし、1シーズンでガタガタになります。
この写真は、当時のものです。チタンリテーナを使っていますが、すぐに痛みました。
これはトラブルというよりも、そのような仕様なのかもしれません。ドラッグレースでは、日常的にエンジンを開け、頻繁にパーツ交換するようですから、それを前提としているのであれば、トラブルではなく使用限度ということでしょう。
このような事を何度も経験していますので、個人的にはロードレースや長い時間エンジンを開けない街乗り仕様では、ドラッグパーツを使いたくはありません。
でもご安心ください。
ドラッグパーツなど使わなくても、楽しいエンジンは幾らでも造れますから。
XJR1300のバルブタイミング調整
前置きが長くなりましたが、このような道具を使ってバルブタイミングを調整していきます。カムシャフトに対してスプロケットを固定する角度をずらしながら、微調整していきます。
角度が決まれば、取り付けボルトにゆるみ止めのネジロックを付けてしっかりと締めなおし、固定します。
STDカムシャフトでも社外製品でも、製造メーカーが設定した適正なバルブタイミングがあります。面研磨したりカムシャフトを変更した場合は、このバルブタイミングを適正値に変更、調整することによって、始めて本来のパフォーマンスが発揮される訳です。
ですから、この作業を省いたりいい加減にする訳にはいきません。チューニングしたのにパワーダウンした、かえって調子が悪くなった、ということも現実に起こり得ます。
エンジン完成!
バルブタイミングの調整をしたら、ヘッド単体でバルブクリアランスの調整をしましたが、ここでもう一度、バルブクリアランス調整をします。
バルブクリアランス調整はカムを外さないとできませんので、意外と面倒くさくて手間の掛かる作業です。そこで、ヤマハからカムシャフトを外さないでシム交換できる特殊工具が販売されています。しかしこれが、思いのほか使いづらい・・・
ですから私は使いません。カムシャフトを外してシム交換をします。
そうして出来上がったエンジンがこれです。
クラッチカバー類も今回は全て黒く塗装してみましたが、精悍なイメージでカッコ良く仕上がりました。
エンジン塗装だけで、ここまでキレイになってイメージが変わるなんで、自分でも驚きです。サンドブラストで砂まみれになって格闘しましたが、その甲斐がありました。
出来上がったエンジンを写真に撮り、お客様にも送って見て頂きましたが、非常に喜んで頂けました。自分のエンジンも塗装したくなりました。
ちなみにこちらが、今まで使用していた20年物の古いXJR1200エンジンです。
こちらが、エンジン塗装をし、フルオーバーホールされたXJR1300エンジンです。
じゃ~~~んっ!!
XJR1200・1300のオーナー様へ
あなたの愛車のエンジン、くたびれてはいませんか?
XJR1300のスペシャリストが、オーバーホールでくたびれたエンジンを蘇らせます!
完成後は、店主自らが試乗テストをしますので、納車後すぐに安心してツーリングに出かけられます。その際、ご要望がありましたら足回りや車体チェックをし、後日アドバイスもさせて頂きます。
ますはお気軽にお問合せ下さい。お一人お一人に誠意を持ってお答えいたします。